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福岡地方裁判所久留米支部 昭和46年(ワ)79号 判決

原告

原一

ほか一名

被告

東邦生コンクリート株式会社

ほか一名

主文

被告らは各自

原告原一に対し、金八七万九、二七六円、および内金五七万九、二七六円に対する昭和四六年六月一〇日より、内金三〇万円に対する本件判決確定の翌日より、右各支払済まで年五分の割合による金員

原告原ヨシエに対し、金一二四万一、五二六円、およびこれに対する昭和四六年六月一〇日より右支払済まで、年五分の割合による金員

を各支払え。

原告らその余の請求を棄却する。

訴訟費用は三分してその二を原告らの、その余を被告らの各負担とする。

この判決は、原告ら勝訴部分につき、原告ら各自各被告に対し、各金三〇万円の担保を立てることを条件に、仮りに執行することができる。

事実

原告ら訴訟代理人は

被告らは各自

原告原一に対し、金三六六万一、三七一円、および内金二八二万九、三七一円につき、被告らに対する本件訴状送達の翌日より、内金八三万二、〇〇〇円につき、本件判決確定の翌日より、右各支払済まで、年五分の割合による金員

原告原ヨシエに対し、金三四九万一、六二一円、およびこれにつき、被告らに対する本件訴状送達の翌日より右支払済まで、年五分の割合による金員

を各支払え。

訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決、ならびに仮執行の宣言を求め、被告ら訴訟代理人は

原告らの各請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの各負担とする。

との判決を求めた。

原告ら訴訟代理人は請求の原因をつぎのとおり述べた。

一  原告らは訴外原久仁男(昭和四五年一二月一四日死亡、独身)の父母であり、被告東邦生コンクリート株式会社(以下被告会社という)は、同訴外人および被告田中義一を雇傭していたものである。

二  被告田中は昭和四五年一二月一一日午前〇時五〇分頃、普通乗用自動車を運転、久留米市善導寺町飯田大場酒店前路上を、山川町方面から吉井町方面に向けて走行中、同所附近の同道路左側に駐車中の大型貨物自動車に自車を追突せしめ、よつて同車助手席に同乗中の訴外原久仁男に重傷を負わせ、同月一四日午後三時頃死亡するに至らせた。

三(一)  右事故は被告田中の前方不注視によるものであるから、民法七〇九条、七一一条により、これによつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

(二)  被告会社は、被告田中運転の右普通乗用自動車を所有し、かつ自己のために運行の用に供していたものであるから、自動車損害賠償保障法三条により、これによつて生じた損害を賠償すべき責任がある。

即ち、被告田中運転の右自動車は、通常被告会社の総務課長用に当てられていたものであり、当日被告会社の忘年会設営担当責任者である同課長が、右忘年会のため送迎用として、同車を運行させていたものである。

四  本件事故により、原告らは被告らに対し、つぎのとおり損害賠償請求権を有する。

(一)  原告らが同訴外人の共同相続人として、同訴外人の被告らに対する左記損害賠償請求権を承継取得した分

1  同訴外人の本件事故による慰藉料 金五〇万円

2  同訴外人の得べかりし利益の喪失による損害

同訴外人は被告会社から給料として、昭和四五年一〇月分金五万三、四五七円、同年一一月分金三万三、八七二円の支給を受け、同年一二月分(一〇日分)金二万九、九一八円の支給を受けたので、月額平均賃金は金五万〇、二四七円であり、同訴外人の一ケ月の必要生活費を五割としてこれを控除し、一ケ年の合計金三〇万一、四八八円に、右月額平均賃金三ケ月分の賞与金一五万〇、七四一円を加えると、同訴外人の年純収入は金四五万二、二二九円となる。

同訴外人は、本件事故当時満二五才の健康な男子であつたから、平均余命を考慮しても、向後三八年間労働し得た筈であり、ホフマン式計算法により、年五分の中間利息を控除すると、右期間中の純収入の現在額は金九四八万三、二四二円となる。

(二)  原告ら固有の損害

1  慰藉料 原告ら各自金一〇〇万円

原告らは、将来を託していた訴外原久仁男を失つたことにより、測り知れない精神的苦痛を受けた。これを慰藉するには、少くとも、原告ら各自金一〇〇万円を必要とする。

2  治療費、葬儀費、弁護士費用合計金九五万九、七五〇円

(原告原一の損害金)

原告原一は、訴外原久仁男の治療費金一、八〇〇円、および葬儀費金一二万五、九五〇円を支払い、かつ被告らが任意損害の賠償に応じなかつたため、原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、着手金として金二〇万円を支払い、さらに本件訴訟勝訴のばあい、請求額の一割の成功謝金六三万二、〇〇〇円を支払う旨約し、右合計金九五万九、七五〇円の損害を蒙つている。

(三)  なお、原告らは右損害の填補として、自動車損害賠償保障法に基く強制保険から、各金二五〇万円を受領し、さらに原告原一は昭和四六年五月二五日被告田中から金七九万円を受領したので、原告ら各自の右損害金合計額からこれを控除する。

五  よつて、被告ら各自に対し損害賠償として、原告原一は金三六六万一、三七一円、および同原ヨシエは金三四九万一、六二一円、ならびに同原一の右請求額中弁護料金八三万二、〇〇〇円に対し、本件判決確定の翌日から、その余の分、および同原ヨシエの右請求額につき、被告らに対する本件訴状送達の翌日即ち昭和四六年六月一〇日より、右各支払済まで、民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

被告抗弁事実はいずれもこれを否認する、と述べた。

被告ら訴訟代理人は請求の原因に対する答弁として

一  請求原因一、二項の事実は認める。

二  同三項(一)の事実は認める。同項(二)の事実は否認する。

ただし、被告田中義一運転の右自動車が、被告会社所有に属する点は認める。

三  同四項の事実中、原告らが強制保険金各二五〇万円、および同原一が被告田中から金七九万円を受領した点を除き、その余の事実は否認する。右各金員受領の点は争わない。

被告田中運転の右自動車は、被告会社の総務課長が被告田中の通勤のため、個人的に貸与したものであり、かつ訴外原久仁男は、同被告が飲酒のうえ自動車を運転することを承知しながら、さらに同被告に飲み廻ることをせがんで、同車に同乗して走行中本件事故に遭遇したものであるから、被告会社は右自動車の運行支配ならびに運行利益を喪失し、本件事故当時、右自動車を自己のため運行の用に供していなかつたものというべきである。さらに同訴外人は右経緯のもと乗車した同乗車であるから、自動車損害賠償保障法三条に所謂他人にも該当しない。

四  同五項は争う。

と述べ、抗弁としてつぎのとおり述べた。

一  被告田中は原告らに対し、昭和四六年五月六日、本件事故による原告らの損害の弁償として金七九万円を支払い、その余の請求をしないものとして、和解した。

二  仮りにそうでないとしても、訴外原久仁男は、前記のとおり被告田中の飲酒運転を承知のうえで同乗し、本件事故に遭遇したものであるから、本件事故惹起につき、八割以上の過失があるものというべきである。よつて、本件事故による損害額算定に当り、少くとも同割合の減額をなすべきである。〔証拠関係略〕

理由

一  請求原因一、二項、および三項(一)の事実は当事者間に争いがない。

二  同三項(二)の事実中、本件事故当時、被告田中運転の自動車が、被告会社所有に属するものである点も当事者間に争いがない。

〔証拠略〕によれば、被告田中が、本件事故当時運転していた右自動車は、被告会社が総務課長用として、同課長にその使用権限を委ね、従業員から貸与方の申出があれば、同課長にその許否の決定権を与えていたこと、被告田中は、本件事故前日、同課長に右自動車を私用のため一時使用を申出で、その許可を受けていたところ、同課長は同日夕刻、被告会社の忘年会場準備のため、右自動車を使用していたので、被告田中も忘年会場に赴き、宴会終了後、同課長らを同乗せしめて、同車を運転走行して、久留米市内のバーに乗り着け、ビールを飲酒して相当に酩酊した末、同日午前〇時頃、訴外原久仁男、同中村義勝を同乗せしめ、結局、浮羽郡田主丸町の同被告方に赴く途中、本件事故を惹起したものであること、訴外原久仁男は、当時被告会社の生コン自動車運転手、被告田中は同会社の自動車整備士、訴外中村義勝も同会社の従業員であつて、いずれも同会社の同僚であり、同会社忘年会の二次会を終えて、相当量飲酒の末、酩酊していたことがそれぞれ認められる。

ところで、自動車損害賠償保障法三条の「自己のために自動車を運行の用に供する者」とは、一般に自動車の運行を支配し、その運行によつて生ずる利益の帰属する者である。

右認定事実によれば、被告会社は、被告田中に、被告会社所有の右自動車を一時的に使用せしめたものであり、依然として、同車に対する被告会社の一般的運行の支配および運行の利益を失わず、有していたものというべきである。

なお、訴外原久仁男は、右自動車の所有者、運転者以外の第三者であり、かつ前記認定のとおりの事情のもとに、同乗した者であるから、当然同条に所請「他人」に該当するものというべきである。

従つて、被告田中は、民法七〇九条、七一一条により、被告会社は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

三  〔証拠略〕によれば、訴外原久仁男は、本件事故による死亡前、頑健な独身男子であり、高校卒業後自衛隊員を経て、従業員約三〇人の被告会社に勤務し、昭和四五年九月金四万七、九〇三円(実稼働日数二六日)、同年一〇月金五万三、四五七円(同日数二五日)、同年一一月金三万三、八七二円(同日数一九日)、同年一二月金二万九、九一八円(同日数一六日、以上いずれも各月二〇日締めによる、各前月二一日より各当月二〇日までの実稼働日数を基礎として算出した額である。)の各賃金、および同年の夏期、冬期の合計金六万九、〇〇〇円の賞与の支給を受けていること、同会社においては、当時右賞与の支給につき、別段の取決めがなされていなかつたが、労働省発表昭和四三年における全国賃金調査結果と対比し、被告会社と同程度の規模の産業において、高校卒男子二五才の賞与平均額は、右賞与合計額を遙かに上廻つていることから、右賞与合計金六万九、〇〇〇円を訴外原久仁男の収入として加算し、年間平均収入を算出するのが相当であり、結局同訴外人は本件事故による死亡前、月額平均賃金四万五、〇七七円(円未満四捨五入、以下同様とする。右月額平均賃金は、同年一二月分が前記のとおり、同年一一月二一日より本件事故当日までの実稼働日数一六日分であり、月額平均賃金の算出に適切でないから、同年九月より同年一一月の三ケ月間の分により算出したものである。)の支給を受けていたこと、同訴外人の年純収入は、同訴外人の一ケ月の生活費を、経験則上月額平均賃金の五割とみるのが相当であるから、これを控除した金二万二、五三九円の一二ケ月分合計金二七万〇、四六八円、および右賞与合計金三三万九、四六八円であり、昭和四五年当時満二五年の男子の平均余命は、約四五・五年であること公知の事実であり、同訴外人は特段の事情がない限り、その後少くとも三八年間稼働可能であつたものというべきであるから、同訴外人の右稼働可能期間中の、得べかりし利益の現在額は、右年純収入を基礎とすると、ホフマン式計算方法により、法定利息年五分の中間利息を控除すると、合計金七一一万八、六四四円(=339,468×20,970)となること、が認められる。

四  訴外原久仁男は、前記認定のとおり、被告田中の過失により本件事故に遭遇して、重傷を負い、間もなく死亡した者であるが、同訴外人は右事故によつて、心然的結果を辿り、生命を失つている者であり、自己の生命侵害に対する損害賠償として、慰藉料請求権を有していたもとのいうべく、右慰藉料として、少くとも金五〇万円を必要とするものというべきである。

〔証処略〕によれば、原告ら夫婦は、訴外原久仁男と同居し、将来原告らの従事する農業を全部同訴外人に譲り、併せて原告らの老後を同訴外人に託すべく、期待をかけてその心積りをなしていたところ、本件事故により同訴外人を失い、多大の精神的苦痛を受け、これを慰藉するには、原告ら各自少くとも各金一〇〇万円を必要とするものであることが認められる。

五  〔証拠略〕によれば、同原告は訴外原久仁男の葬儀費用として、金一二万五、九五〇円を、治療費金一、八〇〇円を支払つていること、原告らは被告らに対し、本件事故による原告らの損害賠償を要求したが、原告らの満足すべき応答がなかつたため、被告らに対し訴訟提起を決意して、原告ら訴訟代理人に本件訴訟を委任し、原告原一が同代理人に着手金として、金二〇万円を支払い、さらに成功報酬として、勝訴額の一割を、同代理人に支払う旨約したことが認められる。

なお、原告らが強制保険金各二五〇万円、および原告原一が被告田中から昭和四六年五月二五日、金七九万円を、それぞれ受領した点については、当事者間に争いがない。

六  つぎに、被告田中は、原告らが同被告との間で、右金七九万円を受領することをもつて、他に損害賠償請求をしないものとする和解をなしたと主張するが、右和解契約を認めるべき証拠はない。

七  訴外原久仁男は前記認定のとおり、被告田中が飲酒酩酊のうえ運転する自動車に同乗中、本件事故により死亡したものであるから、同訴外人の損害額算定につき、右事情を斟酌して、さらに慰藉料請求額等考慮し、同訴外人の喪失利益のみに対し、三割相当の減額をなすのが相当である。

原告らは、前記認定のとおり、同訴外人の父母であり、同訴外人が独身であつたから、その共同相続人であり、同訴外人の慰藉料金五〇万円、および喪失利益に対する右減額後の損害金四九八万三、〇五一円の各請求権の二分の一宛を、相続により、取得したものであるから、右各相続分は、金二七四万一、五二六円の損害賠償請求額となり、これに原告ら固有の精神的慰藉料各金一〇〇万円、および原告原一の支出した治療費、葬儀費合計金一二万七、七五〇円の各損害賠償請求額を加算すると、原告原一は、金三八六万九、二七六円、同原ヨシエは、金三七四万一、五二六円の各請求額となるが、原告らが受領した強制保険金各二五〇万円、および原告原一が被告田中より支払を受けた金七九万円を、右各請求額から控除すると、原告原一は、金五七万九、二七六円の、同原ヨシエは、金一二四万一、五二六円の各請求額となる。

なお、原告原一が支出し、さらに支出すべき弁護料としての、着手金および成功報酬中、各金一五万円を被告らに弁償せしめるのが相当であり、右合計金三〇万円を、同原告の右金五七万九、二七六円の請求額に加算すべきである。

そして、原告らの右各損害中、右認容すべき弁護料金三〇万円を除くその余の分については、被告らに対する本件訴状送達の翌日、右認容すべき弁護料金三〇万円については、本件判決確定の翌日、いずれも既に履行期到来しているものであり、本件訴状は、昭和四六年六月九日、被告らに送達されたこと、記録上明白である。

八  よつて、原告らの各請求は、原告原一につき、金八七万九、二七六円、同原ヨシエにつき、金一二四万一、五二六円、および同原一の右金員中内金五七万九、二七六円、ならびに同原ヨシエの右金員に対する本件訴状送達の翌日である、昭和四六年六月一〇日より、同原一につき内金三〇万円に対する本件判決確定の翌日より、右各支払済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金支払請求の限度において、理由があるからこれを認容し、原告らその余の請求は理由なく失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項但書、担保を条件とする仮執行の宣言につき同法一九六条一項を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 相良甲子彦)

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